ボルベール〈帰郷〉
ライムンダ(ペネロペ・クルス)は、スペインの太陽を思わせるような、
明るさとたくましさ、そして気性の激しさを持つ女性。
失業した夫に代わって懸命に働き、家計を支えていた。
そんなライムンダに、ある日二つの“死”が降りかかる。
15歳の娘パウラが、「実の娘じゃないから」と言って、
関係を迫ってきた父親を、はずみで刺し殺してしまう。
そして、その夜、最愛の叔母の死の知らせが、
故郷のラ・マンチャから届いたのだった。
大切な叔母の葬式を、姉のソーレと隣人のアグスティナに任せ、
死体を隠すことに奔走するライムンダ。
夫の死を目の当たりにした瞬間から、
ライムンダは妻の顔をかなぐり捨て、徹底的に母の顔になる。
たまたま、廃業する隣のレストランの鍵を預かっていたライムンダは、
レストランの冷凍庫に夫の死体を隠したが、
その後どうすればいいか頭を悩ませていた。
そこへ、近くで撮影をしていた映画のクルーがやってくる。
撮影クルー全員のランチを頼まれたライムンダは、
冷凍庫を気にしながらも、生活のためにも忙しく働くことになる。
一方、叔母の葬儀に出席したソーレは、
火事で死んだはずの母が生きていると言う噂を耳にする。
ソーレの前に姿を現した母は、幽霊なのか本物なのか。。。
女たちの過去は悲しいものだし、現実も悲惨。
そして、やっていることは決して許されないこと。
でも、そんなことは忘れさせてくれるくらい、健気でたくましく、
ウイットに飛んだやりとりも楽しい。
強く乾いた風の中、懸命に墓を掃除する女たち。
高らかな音と共に交わされる、親愛のキス。
アルモドバル監督の、故郷ラ・マンチャの大地と、
母、そして女性への、賛歌のような作品だ。
たくさんの方がおっしゃっている通り、
ペネロペは、ホントに素敵だった。
こんなに生き生きとしたペネロペは、
はじめて見た気がする。
そして、こんなに豊満だったんだ!
と、ビックリ。
彼女の歌う、アルゼンチンタンゴの名曲 「VOLVER」。
彼女の流す涙は、
ライムンダの涙なのか、ペネロペ本人の涙だったのか、
そう思わせるくらい、魂の歌だった。
“女”とは、何者なのか。。。
弱いけど強くて、優しいけど自分勝手で、たくましいけど脆くて。
「母」であり、「娘」であり、「妻」であり、「女」。
自分も“女”なんだけど、つくづく不思議なものだと思う。
そして、お墓を掃除する様子や、
大切な人を看取る、という気持ち。
日本人が置き忘れたような感覚。
それが、スペインの大地に息づいている。
ラストに至っても、問題は何にも解決などしていない。
でも、不思議なやさしい気持ちになれる作品だった。
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コメント
こんにちは。
TBありがとうございました。
ラストシーンはわりとさらっとしたものだったので
「え?」と一瞬思ったのですが
そうですよね。
彼女達の抱えてる問題は、なにも解決していないのですよね。
でも、きっと
すったもんだしながらも
明るくたくましく生きていくんじゃないでしょうか。
時に泣き喚いたりしながらね。
投稿: チョコ | 2007/09/24 15:58
チョコ様
このお話に登場する女たちは、
皆、たくましく明るく魅力的でしたね。
ついつい、一緒に泣いたり笑ったりしてしまいました。
スペイン語のおしゃべりは、
なんだかとっても迫力がありました!
英語じゃ、あんなふうには絶対なりませんよね。
私のなかでも、今年のベスト3には入る、素敵な作品でした。
投稿: ri | 2007/09/26 00:59
こんばんわ。
そうなんですよねえ・・・。
ここに出てくる女性達のやっていることって、
犯罪なんですよね(苦)。
でもriさんが書かれているように、そんなことを
すっかり忘れさせてくれるほどに彼女たちは明るくて、
前向きでたくましい・・・。
アルモドバル監督の女性への視点っていうのは、
決して男性監督とは思えないような繊細で密度の濃いもので
いつも感心させられます。
私、今までに行った外国の中でもスペインが
一番好きだったんですが・・・あの熱くて鮮やかで力強い国の
雰囲気がこの作品にはいきいきと描かれていて、
心がジンワリとなりました。
素晴らしい1作だったと思います♪
投稿: 睦月 | 2007/09/27 23:28
睦月様
公開時、こちらでもやっていたのに見逃していた作品。
いつもの名画座で上映してくれたので、やっと観てきました。
ホントに、素敵な作品でした。
アルモドバル監督の女性賛歌3部作と言われる作品。
他の2作は未見なので、是非観てみようと思いました。
睦月さん、スペインも行かれているんですね。
スペインは、やっぱりいいですか!
ギター協奏曲の「アルハンブラ協奏曲」が、とっても好きで、
アルハンブラ宮殿を、この眼で見たい!と思っています。
そして、
実は、このレビューを書いた時、
睦月さんのところにもお邪魔したのですが、
ちょうど、この作品ってあの頃だったんですよね。
コメント欄がすごいことになっていることに気付き、
すごすごと帰ってきてしまいました。
ゴメンなさいね。
でもね、またこうやって睦月さんとお話できていることが、
やっぱり、とってもうれしくて♪
TBさせていただきますね!
投稿: ri | 2007/09/28 02:30