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2007/03/04

パフューム ある人殺しの物語

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 《劇場鑑賞》

 その香りに世界はひれ伏す。

 

 驚異的な嗅覚を持つがゆえに、

 人生に翻弄された男の物語。

 

 

 

映画が始まるまでの短い時間。
何の予備知識もなしに出かけた私は、
ロビーに置いてあったチラシを手に取った。

『スピルバーグ、スコセッシが奪い合った禁断のベストセラー、遂に映画化!』

『その香りがほしい。無垢なる狂気が未曾有の結末をもたらす。』

なんて言葉が踊り、期待が膨らむ。

 

18世紀のパリ。
この頃のパリは、華やかな表の顔とは裏腹に、
道は泥で汚れ、いたるところ悪臭で満ち溢れていた。
特に、魚市場は魚の内臓など種々雑多なゴミの臭いで
パリで一番の悪臭を放っていた。

その悪臭のたちこめる魚市場で産み落とされた
ジャン=バティスト・グルヌイユ(ベン・ウィショー)。
彼は、母の愛も知らず、産み落とされるとすぐ育児院に引き取られる。
だが、グルヌイユは神から類まれなる才能を授けられていた。
それは、ありとあらゆるものの臭いを嗅ぎ分けられる、驚異的な嗅覚だった。

それゆえに、奇怪な青年として周囲に疎まれている彼は、
ある晩、街で偶然出会った女の芳しき体臭の虜になる。
その芳しき体臭を保存したい。。。それが彼のたった一つの願いだった。

 

女の後を尾け、音もなく近づいて臭いを嗅ぐ。
美しい裸体を目の前にしても犯すでもなく、ただ臭いを嗅ぐ。
その度に、ベン・ウィショーの鼻孔が大きく動く。

こう書いていると、いかにも異常なのだが、
スクリーンからは、異常さとか変態的とかいう感覚はほとんど臭ってこない。
臭いという、見えない聞こえないものを描いているのだけれど、
臭いが、視覚と聴覚を刺激するような感覚だ。

グルヌイユは、ある時、
自分には一切体臭がないことに気付き、愕然とする。
彼にとって、臭いがないということは、『無』ということなのだろう。

私達も、時々暗闇や物陰に気配を感じることがある。
『気配』、ってなんだろう。
肌に感じる空気(触覚)と、聞き取れないくらいの物音(聴覚)が
ほとんどを占めると思っていたが、
今まで意識してなかった、臭覚も気配の構成要素なんだと思った。
私のような凡人は、臭いを嗅ぎ分けられたりはしないが、
無意識に鼻でも『気配』を感じているのかもしれない。

 

香りを、視覚と聴覚で嗅ぎ続けた2時間半。
究極の香りを身に纏ったグルヌイユ。
『驚愕の結末』と言われているだけのことはある。
最後の最後は、
私にとっては、少々疑問が残ったが。

ただ、この作品は、物語をあれこれ考えるのでなく、
物語の世界観に浸ればいい気がする。

映像も美しい。
パリの街の猥雑さとは対照的に、
美しい自然、フルーツや花や草の色が際立つ。
そして、それらの香りが映像から視覚に訴えかけてくる。

グラースは、冷たく凛とした石の街だ。
いかにもヨーロッパ的なその佇まいからは、香りが感じられない。
だからこそ、なおさら、
レイチェル・ハード=ウッド演じる、美しい少女の香りを強く感じた。

 

全編、ジョン・ハートのナレーションで綴られていくからだろうか。

映画を1本観終わった、というよりは

小説を1冊読み終わった、そんな気がした。

 

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コメント

riさん、こんにちは。
ご覧になりましたね、このお話。
五感を刺激され、実際には目の前にないものの香りを感じるような
不思議な雰囲気に巻き込まれる作品でした。
riさんもわたしと同じようなものを受け取られたみたいですね。
結論も、よく似ているのが嬉しいです。

2時間半、独特の世界に引きずり込まれ、
終わったら、客席に放り出されてしまって、暫くは席を立てない…
そんな作品でした。

投稿: 悠雅 | 2007/03/05 08:50

悠雅様

実は、4日が期限の映画鑑賞券をもらったので、
これは、もったいないので絶対に劇場に行くぞ~と、
前日に上映作品をチェックし、「あっ、この作品今日からなんだ!」と、
そんなノリで観に行ってきました。

そうなんです。
私も、悠雅さんのところにお邪魔して、
「同じ、同じ!」とうれしくなりました。

『香り』という、文字とは一番遠い感覚を描いていながら、
とっても文学的な作品。
疑問なところは置いておき、中世ヨーロッパの世界観に浸ってきました。

投稿: ri | 2007/03/05 21:40

こんばんわ。

おっしゃるように、かなり変態的な物語でありながら、
実に芸術的かつ文学的要素の強い美しい作品で、
嫌悪感とかはそんなに感じないんですよね。

ここまで嗅覚を刺激する映画には初めて出会ったような気が
します。

≫今まで意識してなかった、
臭覚も気配の構成要素なんだと思った。

riさんのこの一文を読んで、
「ああ!なるほど」と私も思いました。

匂いというのは、生き物同士が子孫を反映するために求愛する
過程で、必要不可欠な要素だといいます。
「匂いを持たぬということは、愛されぬということ」といった
ことがパンフに書いてあって、グルヌイユの皮肉で哀しい運命を
感じました。

投稿: 睦月 | 2007/03/06 00:07

睦月様

コメントありがとうございます。
最近は、睦月さんや悠雅さんのレビューを参考に観る作品を決めて、
時間を作っては劇場に行くというパターンでしたが、
久々に公開直後に観に行ってきました。。(笑)

>匂いというのは、生き物同士が子孫を反映するために
 求愛する過程で、必要不可欠な要素だといいます。
なるほど、だから体臭の薄い日本人は、愛情表現が淡白で、
キスや抱擁も下手で苦手なんでしょうか。
もしかしたら、体臭と比例してる?

>匂いをまとわぬ、香りの天才
睦月さんの、この表現、とっても好きです。
私は、『臭い』を使って書いてしまいましたが、
『匂い』とすると、とたんに格調高い感じになります。
単純に、良い匂いと悪い臭いの違いじゃなく。。。

まだまだ初心者なので、言葉を探していると、
ブログを書くのも結構時間が掛かったりします。
英語も、映画を字幕なしで観れたら、
ジョニーの言葉を理解できたらと、切に思うのですが、

日本語も奥が深く。。。良いですね!

投稿: ri | 2007/03/06 01:03

こんにちは♪

同じような感じを受けながら、この映画を観ていたようですね。
グロテスクで残酷な場面もあるのに嫌悪感を抱かない。
それどころか、どんどん引き込まれてしまった
不思議な映画でした。

匂いって目に見えないけど
結構記憶に結びついてますよね。
友達の家の匂い、おばあちゃんの家の匂い
誰かさんが使ってた香水。
私も誰かの記憶の中に「匂い」を残しているのでしょうか(笑)
たぶん、消毒薬のにおいかも、です(苦笑)

投稿: チョコ | 2007/03/06 15:43

素敵なレビューをありがとうございます。

睦月さんとチョコさんとriさんの素晴らしいレビューを拝見して、
「観たい~~!!」という欲求は最高潮です。

原作を読んでみますね。
私もこういうのは好みです♪
ちょうど「リバティーン」がそうだったように、
観る前から好きだと分かる類の映画です。

楽しみがまた一つ増えました♪

投稿: Rei | 2007/03/06 17:07

チョコ様

私は、どうやら「匂い」に鈍感なようなんです。
よく、ダンナや子供たちに「うそ~、匂わないの!」と言われます。
一時期、コロンをつけていたこともあるのですが、
自分が鈍感なのでつけすぎるのか、
子供に「臭い」といわれ辞めてしまいました。(爆)
そもそも、体臭の薄い日本人には、必要ないものなのかもしれませんね。

でも、「記憶の中の匂い」って素敵ですね。
臭覚って、視覚や聴覚と違い、確認できにくいものだから、
なおさら囚われやすいものなんでしょうか。

そうそう、私、消毒薬の匂い結構好きなんです。(笑)

投稿: ri | 2007/03/06 23:29

Rei様

ありがとうございます。
私のレビューなど、参考にもなんにもならないと思いますが、
私は、好きな作品でした。

劇場に行くのも、子供の予定やその他諸々、
隙間をみつけて、というのがいつものことで、
なかなか、公開直後に観にいくこともできてなかったのですが、
鑑賞券を頂いたおかげで、オバサン根性丸出しで、
意地でも行ってきました。(爆)

私も、『リバティーン』や、この作品のような世界が大好きです。
Reiさん同様、私も原作を読んでみようかと思っています!

投稿: ri | 2007/03/06 23:37

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